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エボラ出血熱・パンデミックへの道 先進国はアウトブレイクを阻止できるか


エボラ出血熱・パンデミックへの道
先進国はアウトブレイクを阻止できるか
エボラ特集第2弾
2014年10月18日(Sat)  村中璃子





欧米諸国における、エボラ出血熱二次感染、三次感染の情報が錯綜している。先進国でエボラがアウトブレイク(流行)に至るのか、世界が固唾を飲んで見守っている。

アフリカではコウモリ、アンテロープ、リス、ハリネズミ、サルなど様々な野生動物を食べる習慣がある。エボラ出血熱の起源はアフリカの密林に生息するコウモリにあると言われている。
(c)Thierry Gouegnon/REUTERS/AFLO

 アメリカは、国内での感染例として、エボラ患者のケアにあたっていた看護師2名の感染を相次いで発表。アメリカに続き、スペインとフランスでも、リベリア帰りの神父や慈善運動家が発症を疑われ、彼らの接触者も検査、観察の下にあるという。

 悪いニュースは、先進国での感染者の報告が増えていること。良いニュースは、先進国で感染し、発症した患者の確定診断例が、未だに医療関係者に限定されていることだ(10月18日現在)。

 米疾病対策センター(CDC)をはじめとした世界の保健当局は、エボラ出血熱は、感染はしているが症状の無い「潜伏期」の患者に感染力はないと主張している。また、感染は患者の体液が目、鼻、口、性器などに触れることが無ければ起きないため、一般人が患者と同じ店や飛行機に居合わせたり、町ですれ違ったりすることはリスクではないする。発症初期の、発熱しか症状のない段階での感染力はゼロではないが低いとの見方も強い。

 アメリカで発症した最初のケースは、潜伏期に検疫を潜り抜けたリベリア人男性だった。最初に受診した外来では「ありふれたウイルス感染症」との診断を受けて自宅に帰され、発症後4日もの間、隔離されることがなかった。隔離されたのは、9月28日。10月18日現在、すでに潜伏期の上限である21日をほぼ経過しているので、今後、この患者からの二次感染が報告される可能性は低い。このことからも、エボラが持つ感染力は、インフルエンザなどのありふれた病気以下であることが窺える。

 だからこそ、オバマ大統領はアフリカからアメリカへの飛行機はストップさせないことを改めて強調している。その結果、今日もアフリカからアメリカへの人の流入は続いている。西アフリカでのエボラ患者数は増加しており、新たな潜伏感染者が米国に入国し、同じ騒ぎが繰り返される可能性は高い。

 エボラ出血熱は、1976年ころから知られている病気。医療水準の低さ、野生動物の食肉習慣や死者に抱きついて弔う風習といったアフリカ独特の状況を背景に、アフリカ大陸の中だけで時折、流行しては収束するローカルな病気であった。それが、今年の8月から感染者が急増。患者は大陸を越え、万全と思われていた先進国の医療体制の中で、静かに感染を広げ始めた。

http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4329

エボラ出血熱・パンデミックへの道 先進国はアウトブレイクを阻止できるか
エボラ特集第2弾
2014年10月18日(Sat)  村中璃子
著者・コラム著者・コラム紹介



 米CNNの報道によると、アメリカ国内感染2例目の看護師は、エボラ感染が確認された前日(10月13日)に航空機に乗っていた。搭乗の際、微熱があるとの申告を受けたが、熱が規制値まで高くないとして搭乗を制止しなかった。その後、16日になってCDCは「10日の段階で発症していた可能性も否定できない」と情報を修正。看護師の接触者の調査対象を拡大している。感染症における体温の上昇は、体内でウイルスが増殖していることを意味する。エボラ患者の発熱として定義された「38.6度」に達する前に、患者は感染力を持たないのか。何度の発熱をスクリーニングの際の定義とするのか。症状は微熱だけで、感染リスクの高まる下痢・嘔吐などの症状はなかったのか。当局の発表すら錯綜しており、不安はつのる。
エボラウイルスは「変異」している?

 今回のアウトブレイクに限って拡大しているのはなぜか、という問いがある中、エボラの遺伝子変異に関する報告が一流の専門誌に上がり始めている。

 たとえば、今年9月、『サイエンス』誌にハーバード大学のグループが発表した論文*(詳細は文末参照)によれば、現在、西アフリカで流行しているエボラ株は、2004年に中央アフリカでアウトブレイクを起こしたウイルス系統のもの。人や動物との間で感染を繰り返しながら、ギニアを経由してシエラレオネに到達する間に、多くの遺伝子変異を起こし、「人から人へうつりやすい性質」に変化を遂げている可能性があるという。ただし、巷間取り沙汰されている「エボラは空気感染する」という仮説に今のところ証拠はなく、エボラは接触感染のままだと見てよい。歴史的に見ても、接触感染が空気感染になるなど、感染様式そのものを変化させるほどの大きな遺伝子変異を遂げたウイルスは確認されていない。

 日に日に騒ぎは大きくなっているが、現在の先進国における状況は、単に「エボラの散発例が確認された」というだけ。しかし、今後は、たったふたつの条件がそろうだけで、事態は「アウトブレイク」と呼ばれる状況に発展していく。

 そのひとつは、医療者ではなく、一般人の間で二次感染が起きること。現在、エボラで想定されている感染様式や臨床経過では、感染初期に患者を隔離すれば、一般の人の間で次々と感染者が出る可能性は低い。それなのに、感染が起きたとなれば、感染様式や感染力に関する評価そのものがゆるぎ、対策そのものの正当性が問われることになる。

 もうひとつは、ある国のある地域に限定された報告ではなく、全土で感染者が報告されるようになることである。テキサス州の中だけで感染者が出ている分にはまだよい。これがアメリカの他の地域の、特に一般人の間で感染者が報告されたとなれば、警戒すべき拠点が増え、管理はより難しくなるだろう。

 ある感染症が限定した地域でアウトブレイクするのではなく、先進国を含めてグローバルに流行することを「パンデミック(世界的大流行)」と呼ぶ。歴史上、パンデミックを起こし、多くの死者を出したウイルスはインフルエンザだけ。2009年の新型インフルエンザのパンデミックでは、幸いなことに当初の予想よりも病原性が低く、広がるだけ広がったが、季節性インフルエンザ並みの被害で終わった。しかし、エボラは致死率が極めて高く、病原性の高いウイルスであることはすでに疑う余地がない。

 ヒトからヒトへと移りやすい性質に変化を遂げているエボラウイルスは、パンデミックのポテンシャルを持つ。欧米各国は、検疫や病院での早期発見体制を確立し、医療従事者の安全を担保して、エボラの「早期封じ込め」に成功するのだろうか。新型インフルエンザが病原性の低さに助けられたように、接触感染という比較的うつりづらい感染様式に助けられて事態は収束するのか。

 日本では、飛行機の往来の少ない西アフリカでのアウトブレイクを、同情の混じったのんびりした気持ちで見ていた。しかし、アメリカや欧州の各地で感染が広がり、アウトブレイクとなれば、日本への感染拡大のリスクも一気に増す。

 先進国が自国内でのアウトブレイクの阻止に失敗すれば、それは一国とエボラとの戦いから、「人類」とエボラの戦いへと大きくフェーズを変えることを意味する。

 今が正念場だ。

※前回記事「日本上陸も秒読み!? 米国人看護師感染の意味」はこちら

*注:
Stephen K. Gire et.al. Genomic surveillance elucidates Ebola virus origin and transmission during the 2014 outbreak, Science 12 September 2014: 1369-1372.Published online 28 August 2014

http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4329?page=2

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