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エボラ対策、日本異例の「全員確認」 流行国からの入国
2014年10月25日08時52分
写真・図版羽田空港国際線の検疫の検査場では、エボラ出血熱が流行しているアフリカ4カ国への滞在歴を申告するよう呼びかけていた=24日午後、内田光撮影
写真・図版
米ニューヨークでもエボラ出血熱の感染者が確認され、衝撃が広がっている。日本政府は24日、海外からの入国者全員に空港で滞在歴の確認を始めるなど、「異例」の対策強化を打ち出した。だが、水際で完全に防ぐのは難しい。国内で感染者が見つかった場合に備え、患者の搬送や治療など課題の検討を急いでいる。
特集:エボラ出血熱
1日3万数千人が入国する成田空港の入国審査ブース。24日午後、大きな荷物を持って海外から到着した乗客らに、入国審査官がカウンター越しに英語や日本語で尋ねた。
「これにあてはまりますか」。審査官が指すのは、九つの言語で書かれたボード。エボラ出血熱が流行しているアフリカ4カ国に、3週間以内に滞在したかどうかを確認する内容だ。旅券でも過去の渡航先を確かめた。
東京入管成田空港支局の石井秀司渉外調整官は「検疫所と連携を深め、感染拡大の防止に努めていきたい」。ドイツ出張から帰国した群馬県の会社員男性(56)は「欧州は流行国に近く、私自身もウイルスに触れていない保証はない。万全の対策をお願いしたい」と話した。
羽田空港国際線の入国審査の各ブースでも、同じように入国審査官がすべての乗客に流行国の滞在歴を確認。乗客は首を横に振ったり、「いいえ」と答えたりしていた。タイからの出張帰りという東京都板橋区の会社員平田剛士さん(33)は「しっかりチェックしてほしい」と語った。
政府は今週に入り、検疫対策を次々に強化した。背景には、医療水準が高い米国やスペインで二次感染が起きたことがある。
検疫強化は、2009年にメキシコで発生した新型インフルエンザでも実施された。日本との交流も多く、一気に感染が広がるため、国内発生をなるべく遅らせるのが目的だった。
エボラ出血熱は致死率が高いものの、患者の体液などに触れない限り感染しない。政府は、検疫の効果がより期待できると判断し、新型インフルでもしなかった入国審査での全入国者の滞在歴確認に踏み切った。
検疫官だけでは全入国者の確認はできないため、法務省入国管理局の協力を得た形だ。厚生労働省幹部は「日本では必ず捕捉しないといけない」と話す。
■すり抜け後の対応課題
感染症を水際で完全に食い止めるのは難しい。エボラウイルスに感染してから発症するまで2~21日とされ、米国の二次感染の例でも、リベリアからの渡航者が空港の検疫をすり抜けて入国し、混乱が拡大した。
9月、リベリアに約10カ月滞在した60代の日本人男性が帰国後10日目に発熱し、沖縄県の医療機関を受診した。検査の結果マラリアとわかった。防護服などを装着せず患者に接触し採血もしており、エボラ出血熱ならば二次感染の恐れもあった。沖縄県の担当者は「治療ができる指定医療機関の琉球大学病院に搬送する準備をしていたが、非常に緊張した」と話す。
エボラ出血熱は発症初期は発熱だけのことがあり、ほかの病気と見分けにくい。東京医科大感染症科の水野泰孝・診療科長は「流行国に行った人は適切な治療を受けるために正直に申告してほしい。ただ、検疫の強化と保健所への連絡の徹底で、指定医療機関以外の病院や診療所に感染者が来る可能性はかなり減る」と話す。
流行国からの入国者は、米国がギニア、リベリア、シエラレオネの3カ国で1日約150人。これに対し、日本は10月20日までの1カ月余りで、感染の終息宣言が出たナイジェリアなども含む5カ国で1日平均16人と少ない。「日本にエボラ出血熱が入ってくる可能性は欧米よりかなり低い」と水野さんはみる。
エボラ出血熱患者は全国の45指定医療機関で治療する。課題はいかに患者を確実に指定医療機関に運ぶかだ。基本的に保健所が担うが、青森、宮城、秋田、石川、香川、愛媛、大分、宮崎、鹿児島の9県は指定医療機関がなく、近隣県への搬送ルートの確認を急いでいる。厚労省は国立国際医療研究センター(東京都)などの専門家を派遣し、治療することも検討している。
日本医師会の横倉義武会長は「エボラ出血熱は空気感染でなく接触感染なので、過度な不安を持つ必要はない。03年の重症急性呼吸器症候群(SARS)や09年の新型インフルエンザでは日本の対応は優れていたと国際的に評価を受けた」と話す。