http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKCN0ID0CO20141024
「エボラノミクス」模索する医薬品業界、政府備蓄が需要のカギ
2014年 10月 24日 15:06 JST
10月23日、去年までエボラ出血熱のワクチンや治療薬は医薬品業界のレーダーに捉えられていなかった。カナダ・ウィニペグで撮影。提供写真(2014年 ロイター/Public Health Agency of Canada)
[ロンドン 23日 ロイター] - 去年まで、エボラ出血熱のワクチンや治療薬は医薬品業界のレーダーに捉えられていなかった。しかし今、医薬品業界はこれまで無視してきたこの疾病を視野に入れ、一部で「エボラノミクス」と呼ばれ始めた新たな経済・ビジネスモデルを構築するよう迫られている。
GAVI(ワクチン予防接種世界同盟)は既に、エボラ熱ワクチンを手ごろな価格で調達する方法を模索し始めた。製薬会社はエボラ熱の医薬品開発にどれほどの額を投じるべきか思案中だ。なにしろ昨年まで過去40年間のエボラ熱感染者は2400人どまりだったのだから。
現在でさえ、先進国の製薬会社にとってエボラ熱医薬品がドル箱になるとは見込まれていない。主な感染者はアフリカの貧しい人々で、先進国における医薬品備蓄の必要性は限られる見通しだからだ。
GAVIのセス・バークレー最高責任者はロイターに対し、「GAVIが取り組もうとしているのは、あらゆる潜在的選択肢を洗い出し、人為的市場を作り出すべきかどうかを自問することだ」と話した。
人為的市場の要素としては、政府が製薬会社に対しワクチンの大量購入を前もって約束することや、初回の購入価格を高くするといったインセンティブを付けて製薬会社に開発を促すなどの措置が考えられる。
バークレー氏は「米国やスペイン、英国ではワクチンが必要とされていないため、現時点では経済原理が働いていない。問題はワクチンを必要としている国々が極端に貧しいことだ」と話す。
過去にはエボラ熱による死亡者は非常に少なく、最初にこのウイルスが特定されて以降の38年間のうち、22年間は記録上死者が出ていない。エボラはエイズウイルス(HIV)やマラリアに比べて構造が単純であるにもかかわらず、ワクチン開発の努力が怠られてきたのはこのためだ。
しかし今回は既に約5000人が死亡しており、その大半がリベリア、シエラレオネ、ギニアに集中している。
「エボラノミクス」模索する医薬品業界、政府備蓄が需要のカギ
2014年 10月 24日 15:06 JST
10月23日、去年までエボラ出血熱のワクチンや治療薬は医薬品業界のレーダーに捉えられていなかった。カナダ・ウィニペグで撮影。提供写真(2014年 ロイター/Public Health Agency of Canada)
<備蓄>
ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のブライアン・グリーンウッド教授は、次のエボラ熱感染拡大に備えて準備を周到にすることが唯一の賢明な対応だとし、「(医薬品の)備蓄が必要だ」と言う。
既に英グラクソ・スミスクライン(GSK.L: 株価, 企業情報, レポート)とニューリンク・ジェネティクス(NLNK.O: 株価, 企業情報, レポート)の未承認ワクチンについて試験が行われており、米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)(JNJ.N: 株価, 企業情報, レポート)のワクチンも来年1月に臨床試験に入る予定だ。最前線の医療現場スタッフ数千人が、来年初めには受け取ることになる。
さらに来年後半には予防接種に数百万人分のワクチンが必要になりそうで、それには政府や寄付機関による財政支援を要する。これに関連する製薬会社の損失や債務を補償する体制も必要だろう。
製薬会社も医療専門家もこうした事態はまったく想定していなかったため、大規模な見直しを余儀なくされている。
グラクソのアンドルー・ウィッティー最高経営責任者(CEO)は今週、「現在の状況は、仕事のやり方と考え方の見直しを迫るものだ」と語った。
<投資家の目>
投資家もエボラ熱の影響に着目している。たった一つの製品が業績を大きく左右する小規模なバイオ企業の株価は最近、製品の成否に関するちょっとしたニュースに反応して乱高下している。
「エボラノミクス」模索する医薬品業界、政府備蓄が需要のカギ
2014年 10月 24日 15:06 JST
10月23日、去年までエボラ出血熱のワクチンや治療薬は医薬品業界のレーダーに捉えられていなかった。カナダ・ウィニペグで撮影。提供写真(2014年 ロイター/Public Health Agency of Canada)
武田薬品工業(4502.T: 株価, ニュース, レポート)のワクチン責任者、ラジーブ・ベンカヤ氏はエボラ熱の感染拡大を受け「複数の医薬品や診断器具、ワクチンが認可され、入手可能になるだろう」と予想。製薬企業は開発段階で政府と寄付の支援を受けながら、機能するビジネスモデルを見出していくだろうと話した。
とはいえ、世界的な感染拡大への不安が広がっているにもかかわらず、エボラノミクス理論はまだ不確かなままだ。
先進国から西アフリカを訪れる人々は、感染者と緊密かつ頻繁に接触しない限り感染するリスクは非常に低い。爆発的に感染が拡大するインフルエンザなどと異なり、エボラ熱用の医薬品備蓄は小規模で戦略的なものになりそうだ。
国際的健康慈善団体、ウェルカム・トラストのビジネス開発アナリスト、キース・スペンサー氏は「エボラワクチンが長期的に利益を上げる唯一の道は、政府が備蓄するというシナリオだろう。しかし有効性が確認されたワクチンがまだ存在しないため、購入を望む人が出てくるかどうかもまだ分かりづらい」と話した。
(Kate Kelland、 Ben Hirschler記者)