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エボラウイルスの危険性と日本の準備態勢


http://president.jp/articles/-/13747

2014年10月29日(水)
エボラウイルスの危険性と日本の準備態勢

PRESIDENT 2014年11月17日号
野中大樹=構成 原 貴彦=撮影 時事通信フォト=写真


どんどん感染する、どんどん人が死ぬ
死者が4000人を超え、米国やスペインでも二次感染が確認されたエボラ出血熱。いよいよ日本上陸か――。国際感染症対策室の医長・加藤康幸氏は、WHOのミッションでエボラ出血熱の発生地である西アフリカを今年2度訪問した。現地では何が起きているのか。日本の対策は万全か。日本の診療ガイドラインをまとめた加藤氏に聞いた。

医師 加藤康幸(かとう・やすゆき)
国立国際医療研究センター国際感染症対策室医長。1969年生まれ。千葉大学医学部卒、米ジョンズ・ホプキンス大学大学院修了。都立病院勤務などを経て現職。日本で数少ない「1類感染症」(最も危険性が高い感染症)の専門家。

エボラ出血熱はリベリア、シエラレオネ、ギニアを中心に感染者が増えています。私は5月と8月の2回、リベリアの首都モンロビアを訪れました。

5月の時点ではほとんど患者はいませんでしたが、8月に行ったときには急速に増えていました。しかし私の到着時、感染者を治療する施設ETU(Ebola Treatment Unit)は1つしか稼働しておらず、ベッド数は25床のみ。すでにキャパシティを超えていました。入院が必要な患者も60人、90人という加速度的なペースで増え続けていました。

症状は体温が39度を超えるような高い熱が一般的です。最初の1週間高熱が続き、嘔吐や下痢、腹痛もよくあります。2週目に入ると症状がより顕著になり、下痢や嘔吐のなかに血液が混じることもあります。生死を分けるのは発症から、10日から2週間程度の間です。その期間を耐えることができるかが問題です。

そもそもアフリカ大陸には様々な感染症が蔓延しています。リベリアやギニアなど西アフリカではマラリアが多く、診療所には日々マラリア患者が来ます。ただ、エボラのように短期間で人から人にうつり、医療従事者まで亡くなってしまうような病気はほとんどなく、私自身もこれまで経験したことがありません。

エボラウイルスが人に感染する経路は主に粘膜です。目や口の粘膜のほか、傷口などからも入ります。感染者が集中している3カ国は、経済指数でいえばアフリカでも下から数えて何番目かの国々。居住空間では、狭い部屋に大勢の人が生活をしています。水洗トイレはありませんから、患者が下痢や嘔吐をしても水で洗い流せるわけではないのです。どうしても衛生面での問題がある。

医療機関にも同じことがいえます。5月に訪問したとき、各地の病院を視察してわかったことは、手洗い場が少ないことです。あっても石鹸がない。手を拭くタオルもいろんな人が拭いたものがずっとそのままになっているので清潔ではありません。

このような状況で病院内にエボラが入ってきたら間違いなく拡がります。5月に現地入りしたときは医療環境の改善に力を入れようとしたのですが、物資も医療従事者の意識も、現状に追いつけませんでした。8月の再訪問時にはここまで拡がるものかというほど、感染が拡がっていたのです。




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2014年10月29日(水)
エボラウイルスの危険性と日本の準備態勢

PRESIDENT 2014年11月17日号
野中大樹=構成 原 貴彦=撮影 時事通信フォト=写真

住民が見守る中、隔離されるエボラ出血熱感染者。(時事通信フォト=写真)

感染が拡大した背景には、現地の葬儀の風習もあるといわれています。WHOのスタッフには文化人類学の専門家もおられたので、その方々から聞いたのですが、西アフリカの葬儀は厳かで、とても盛大なのだそうです。

日本だと病院で亡くなる方が多いですから、看護師が防護具を身につけ、遺体をきれいにします。口や消化管からは亡くなった後も体液が出ますので綿を詰めたりします。そして服を着せ、あとは葬儀屋さんが棺に納めるという流れになりますが、西アフリカは違います。男性が亡くなれば男性の親族が、女性が亡くなれば女性の親族が、家の中で体をきれいにする。身近な方が死者を清めることが大切で、精神的、宗教的な意味合いが強いんです。長い間続いてきた慣習を、外からやってきた人が「そうするとエボラウイルスに感染するから、やめたほうがいい」と警告しても通じません。「今まで死者の体を洗って問題など起きなかった。何を言っているんだ」と、そういう感じだろうと思います。

エボラが流行して社会がパニック状態なのかというと違います。町の様子は至って平穏でした。420万人の国で、エボラに感染した方が半年で4000人とすると0.1%。さらにその0.1%のうち半分は助かります。エボラ以外の様々な病気で多くの人が亡くなっているのが現実ですから、ラジオで「Ebola is real(エボラは本当です)」と伝えても大半の人がリスクに実感を持てなかったのです。

いつのアウトブレーク(疫病の発生)も最初の症例がどういう経緯での感染だったのかははっきりとしません。エボラウイルスは野生のコウモリが持っているといわれていますから、コウモリの排泄物はエボラを含んでいるかもしれません。かつて、コンゴ(民主共和国)の山深いところでゴリラが多数死んでいるのが発見され、研究者が調べてみるとエボラだったという報告がありました。人間には感染せず、ゴリラだけで終わったアウトブレークですね。

今回どういう経緯でエボラが拡がったのか、そのメカニズムははっきりとしていないんです。私の印象ですが、アフリカの奥地にまで自動車社会が到来したことが関係している気がします。私たちは、5月に山奥の発生地へ行きました。車で10時間かかりましたが、それでも車が入れる程度に道路は整備されていました。トヨタのランドクルーザーがあればたどりつけるんです。そのこと自体が、これまで山奥だけで終わっていたアウトブレークが外に出て、人口の多い都市部に拡がる背景にあるのではないでしょうか。そして流行地からやってきた旅行者が外国で感染が発覚し、そこから二次感染が生まれている。便利さを求めてきた人類が「パンドラの箱をあけた」といえるのかもしれません。

新興感染症という用語が出てきたのは1970年代でした。エボラはその代表格です。研究でわかってきたのは、熱帯地域の生物の多様性です。様々な動植物ばかりでなく、熱帯雨林には病原体もたくさんあるんです。

世界的に人口が増え、人類は食べ物をつくっていかなければならなくなりました。快適な生活空間もつくらなければならないし、移動手段も増やさなければなりません。エボラの発生地である西アフリカの山奥は、鉱山資源が豊富な地域として注目を浴びてきたところでもありました。



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2014年10月29日(水)
エボラウイルスの危険性と日本の準備態勢

PRESIDENT 2014年11月17日号
野中大樹=構成 原 貴彦=撮影 時事通信フォト=写真

日本にいつ来る、どうする、どうなる

ですが、熱帯雨林に手をつけるのは危険をともないます。凶悪なウイルスが眠っている可能性がある。「(ウイルスを媒介する)コウモリと接触する機会が増えすぎたのではないか」「その原因は何か」そういう発想が必要だと思います。つまり、個々のウイルスへの対処とは別に、地球の生態系をひとつの生き物としてとらえる視点です。

日本では99年に感染症法ができ、エボラは各県の感染症指定医療機関で対応すると定められました。日本で経験したことのない病気について、指定医療機関の医師の研修に協力してほしいと厚労省から2007年、国立国際医療研究センターに依頼がきました。海外での研修を企画してほしいというものでした。そこで年一回の海外研修を始めました。

また、各県の指定医療機関で患者が発生したときの治療法や感染症対策のガイドラインがなかったので、それを作成してほしいという依頼が11年にありました。それもお引き受けし、6人のチームで3年かけて診療の手引きをつくりました。近々ホームページに載せたいと考えています。

日本の場合、西アフリカと人的な強いつながりがありませんからエボラが直接入ってくる可能性は高くないと思います。先日、私が診察した患者はリベリアから帰国後、高熱が出たという人でしたが、診断結果はマラリアでした。可能性が高いのはマラリアです。診察する場合はまずマラリアかどうかを確認し、それでも判断がつかないまま症状が悪化するようであれば国立感染症研究所に相談していただきます。エボラは米国での状況次第でしょう。米国の事例はよくも悪くも世界に大きな影響を与えます。もし日本に入ってきたら現行の法律で定める「各都道府県での対応」は現実的には困難もあります。エボラかどうかがわからないまま時間がたってしまうことがないよう、検査も含めて私ども国立国際医療研究センターや国立感染症研究所が直接相談できるシステムを構築しています。

対応策は99年からつくりあげてきました。その仕組みもさらに改善しています。万が一、日本にエボラが入ってきても感染の拡がりを防ぐべく、万全の準備をしていく必要があります。

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