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(科学の扉)脅威、エボラウイルス 臓器の細胞壊され死に至る


(科学の扉)脅威、エボラウイルス 臓器の細胞壊され死に至る

2014年9月22日05時00分

写真・図版脅威、エボラウイルス

 西アフリカでエボラ出血熱の大流行が収まらない。1976年にエボラウイルスが発見されてから最大規模の流行。世界保健機関(WHO)によると、死者はリベリア、ギニア、シエラレオネなどで2400人を超えた。なぜ、致死率が著しく高いのか。決め手となる治療薬はできないのか。

 今回の流行が最初に報告されたのは3月、ギニアの南東部から首都に広がった。3月中に患者が100人以上に達し、流行は国境を越えた。拡大を続け、国立感染症研究所ウイルス第一部の西條政幸部長は「今月に入って患者数の増加の幅が大きくなっている」と心配する。

 エボラウイルスの人間から人間への感染は、北海道大の高田礼人(あやと)教授(ウイルス学)によると、患者の血液や汗などに触れた手が、皮膚のバリアー機能が働かない傷口や目などの粘膜と接触して広がる。人間に感染すると、2~21日間で発熱、のどの痛みが現れ、下痢や嘔吐(おうと)のほか、肝・腎臓機能に異常が起きる。重症になると、患者は吐血や下血をして死に至る。

 これまで5種類のエボラウイルスが見つかっており、今回流行しているのは「ザイール・エボラウイルス」。致死率が最も高く、過去の流行では80~90%に達した。ただ、今回は約50%で、差がある理由は不明だ。

 猛威をふるうエボラウイルスはどこから来たのか。

 ウイルスは自分では増えることができず、感染した生物の細胞が増殖する仕組みを利用して増える。感染した細胞が異常を起こすと病気になるが、何事も起きない生物もいる。エボラも、長年、何事もなく体内にウイルスがいる「自然宿主」の動物が存在すると考えられる。

 その動物と考えられているのは熱帯地方に多い大型のオオコウモリ。ウイルスの遺伝子が検出された報告がある。チンパンジーなどの霊長類は感染すると病気になる。人間にはオオコウモリから直接感染するのか、別の動物を介してなのかわかっていない。

 ■止まらない出血

 エボラウイルスが強力なのは、高い増殖力と、細胞に異常を引き起こして激しい症状をもたらす性質のためだ。

 動物実験の結果などから、体内に入ったウイルスは、外敵を退治する「マクロファージ」という血液中の細胞に取りつく。

 糸のように細長いウイルスの表面には、たんぱく質が突き出ている。高田さんは「マクロファージの細胞膜表面のたんぱく質に結合しやすい性質がある」と説明する。

 膜から内側に侵入したウイルスは、細胞が増える仕組みを使って、増殖に必要なRNAやたんぱく質を大量にコピーして増える。西條さんは「患者の血液1ミリリットルからは、1千万個ものウイルスが検出される」と話す。増えたウイルスは肝臓や腎臓、血管など全身の細胞に侵入。臓器の細胞を壊し、多臓器不全に至らせる。

 特徴的な症状の出血は、マクロファージの暴走が一因と考えられている。ウイルスが取りついたマクロファージは、血液を固まらせる物質(因子)を大量に放出。その物質が使われて体のあちこちで血液が凝固する。その結果、流れている血液中には固まらせる物質が不足。血液がもろくなった血管の壁を破っても固まらず、歯ぐきなどからの出血が止まらなくなる。

 ■治療薬は開発中

 エボラ出血熱の根本的な治療薬はない。下痢で脱水症状が起きたら、水分を補給させるといった対症療法に限られる。

 だが、有望視される複数の薬が開発段階にある。

 その一つが、ウイルスが細胞に付着するのを防ぐ抗体薬だ。米製薬会社の「ZMapp」は、3種類の抗体がウイルスと結合。このため、ウイルスは細胞にくっつけなくなり、感染の広がりを抑えられる。

 二つ目は、ウイルスの増殖に必要なRNAが合成されるのを防ぐ薬。日本の製薬会社が開発した新型インフルエンザ治療薬「アビガン」は、RNAを複製する酵素の働きを抑え、マウスの実験では、エボラウイルスでも同様に働く。

 また、海外の製薬会社がワクチンを開発中。表面をエボラウイルスと同じものに置き換えた害がないウイルスを作る。それを注射してエボラウイルスを排除する抗体を体内で作らせる。

 ただ、いずれも有効性は未知数。研究者らは早期の治療としては期待するが、出血を起こした重症患者を劇的に治す「魔法の薬ではない」と指摘する。

 このほか、WHOは回復した元患者の血液に含まれる抗体を血清として取り出して、患者に注射する治療法も有効策とみている。(野中良祐、寺崎省子)

 <エボラ> ザイール(現コンゴ)を流れる川の名前で、1976年に付近の村で患者が確認され、ウイルス名となった。同時期にスーダン南部(現南スーダン)でも流行が起き、主に中央アフリカで流行を繰り返してきた。

 <マクロファージ> 体内に存在する免疫細胞のひとつで、菌やウイルスなどの異物を見つけると取り込んで分解する。マクロは「大きい」、ファージは「食べるもの」。異物の情報を他の免疫細胞に伝え、撃退する抗体をつくるスイッチの役割も果たす。

 <抗体薬> 病原体やがん細胞など健康な体にとっての異物を排除する抗体を人工的に製造した薬。抗体を合成する遺伝子を組み込んだ細胞からつくる。抗体は異物のみを排除するため、化学物質を成分とする薬よりも副作用が少ないと期待できる。

 ◇「科学の扉」は毎週月曜日に掲載します。次回は「作物品種の多様性」の予定です。ご意見、ご要望はkagaku@asahi.comへ。
 
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