臨床試験中の2種類のワクチンが投与されるのは今年11月以降になりそうだ(写真はイメージです)
エボラ出血熱、日本発“特効薬”への期待
WHOの最新方針は肩透かし
堀越 千代 :週刊東洋経済編集部 記者
2014年09月11日
西アフリカを中心に広がるエボラ出血熱による死者が、2000人を超えた。感染拡大に歯止めがかかる気配もなく、封じ込め策も後手に回っている。
エボラ出血熱には現在のところ、有効な治療薬がない。だが、まだ開発段階にある新薬の中で、"特効薬"候補として注目されているものが2つある。米国で開発された「ZMapp」と、富士フイルムホールディングス傘下の富山化学工業が開発した抗インフルエンザ薬「ファビピラビル(製品名アビガン)」だ。
このうちZMappは、8月上旬にエボラ感染者に投与され、いったんは回復が見られたものの結果的には死亡してしまったという経緯がある。ファビピラビルはまだヒトに投与されたことはないものの、その有効性が数々の論文で指摘されている。
ただ、日本発の“エボラ特効薬”が生まれるまでには、まだ時間も要しそうだ。世界保健機関(WHO)の専門家会議は9月5日、未承認薬の投与についての具体的な指針を示した。要旨は以下の通りだ。
1.エボラ出血熱に感染した後に回復した人の血液や血清を用いた治療法を優先的に考慮する
2.臨床試験中の2つのワクチンについて、安全性が確認され次第、感染国の医療関係者等に優先的に投与する
3.そのほかの開発段階にある治療薬については、有効性や安全性のデータがそろい次第、検討する
ファビピラビルはどうなる?
専門家会議後に開かれた会見で、ある記者は、「中国で開発されたJK-05という新薬は臨床試験も完了しているようだが、これについてWHOは議論をしたのか」と質問した。JK-05とは、9月1日付の中国紙『人民網』が、中国軍事医学科学院の微生物流行病研究所が5年かけて開発し、中国人民解放軍の審査に合格し軍隊特需薬品として認められたと報じているものだ。
この質問に対し、WHOのキーニー事務局長補は、「その薬剤は日本のT-705、ファビピラビルと同じ分子である。ファビピラビルについては議論を重ねた」と答えた。その上で、「ファビピラビルは確かに有望な新薬だ。ただし、培養されたエボラ出血熱ウイルスにおける有効性が、試験管内で示されただけである。投与の優先度を考えうるに足りるデータがそろい次第すぐに検討する」とも話した。
日本政府はこれまで「WHOからの要請や一定の条件を満たせば、ファビピラビルを提供する」と意気込んでいたが、供給要請はもう少し先になりそうだ。富山化学工業は「現在、2万人分以上の在庫があり、エボラ出血熱の現在の患者数に対しては十分な量がある。ただ、今後もどのような治験データが必要になるのかなど当局と話し合いを続けていく」と話す。
一方、ZMappについてはどうか。キーニー事務局長補はこちらについても「8月に実験的に投与されたことで有望であることが示唆されはしたが、効果があるのかないのかを結論づける十分な経験がまだない。ほかの開発段階にある新薬と同様、データが揃い次第、早急に検討する」とした。
血液治療の効果は?
今回の会議で最優先治療に据えられた血液治療とはいったいどのようなものなのか。感染国には、エボラ出血熱に感染したものの生き延びて回復した人も数多くいる。こうした人たちの血液には抗体が含まれているため、輸血を受けたり血清を投与したりすることで、エボラ出血熱の治療に使えるというわけだ。1995年にコンゴ共和国のキクウィトでエボラ出血熱が流行した際にも使用され、効果があったという。
この治療法が最優先とされたのは、今すぐに感染国内で実施できるためだ。会議に参加したナイジェリアのウイルス学者は「ワクチンや新薬の臨床試験結果が出るまでにはまだ時間がかかる。が、それまで待っていられない」と強調した。
2つのワクチンについては、9月半ばから欧米やアフリカの医療機関で安全性についての臨床試験が開始され、結果が出るのは今年(2014年)11月とされている。新薬のデータが出そろうのはさらに先の話。感染封じ込めに緊急性を要するという点で、最も有効な手段と判断されたわけだ。
現地で活動する国境なき医師団のジョアンヌ・リュー会長は、「史上最悪の流行に突入して6カ月。エボラ出血熱の封じ込めに世界は敗れつつある」と話したが、今回の会見でキーニー事務局長補は「私たちは『もはや希望がない』という思いを改め、現実的な希望を見出していかなければならない」と宣言した。感染拡大に歯止めをかけられるか。ウイルスとの戦いは続く。
http://toyokeizai.net/articles/-/47687
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